タバコの箱は偉い | うつだってブログ

タバコの箱は偉い

今日はボックスタイプの「タバコの箱」について考えてみた。

タバコの害については言うまでも無く,タバコの記事なんか見る気もしないという人も居るかもしれないが,ここでは純粋に「箱」の工業デザイン的要素について考えてみたので、よかったら読んでいってほしい。

タバコの個別包装には、大きく分けて薄い紙のものと、ボール紙を使ったボックスタイプの2つがある。ここで取り上げるのはボックスタイプの方だ。

銘柄は「PIANISSIMO SLIMS ONE」、ちょっと細くて長いメンソール。タール1mgの割りに吸い応えがあるので気に入っているのだが、今日は中身はどうでもいい。
このタバコの箱はおおよそ10cm×5cm×2cm位の縦長の箱で、縦の一番長い辺に0.5cmくらいのRがついている(角ばってなくて角が丸くなっているということだ)。これが見た目以上に非常によく考えられていて素敵なのだ。

タバコを吸わない人は知らないと思うが、ちょっとボックスタイプのタバコの箱の蓋の機構について説明してみる(言葉だけで説明するのはかなり難儀なので、誰かこのタバコを吸っている人を見つけてきて、手にとって眺めてみてほしい)。
前面の上辺から約2.5cm位のところから上が蓋だ。前面の角の丸みが始まる位置あたりから斜め40度位の角度で切れ上がっていて、裏面では上辺から1cmくらいの高さになる。蓋の切れ目は裏面の角の丸みが終わる辺りまで裏面に入り込んで終わっており、裏面はこの両側の切れ目をつなぐように折れ目がつけてある。この折れ目をリンク(蝶つがい)にして蓋が「かぱっ」と開く構造になっている。

蓋を開けると中にはもちろんタバコが入っているわけだが、そのタバコ全体をくるむように、実は内側にもう1重ボール紙が前面につけてある。この内側のボール紙は箱の一番上面まで届く長さになっており、ちょうど蓋が印籠のように内側のボール紙に重なるようになっている。

ここでふと考えた。
もし、この箱を、もっと硬い金属で作ったらどうなるか。開かないのだ。
ものを見てようく考えると判るのだが、蝶つがいになっている折り目が上面より下にあるせいで、内側のボール紙やタバコ自体が蓋に引っかかって開かないはずなのだ。
印籠なのだから。

茶筒を考えてみればよい。茶筒の蓋は真上に持ち上げればすっと外れるが、斜めにこじってみても開くものではない。当然のごとく蓋が印篭状になった内側のつつにひっかかってこじれて開かない。
ところがこのタバコの箱は空く。どうしてだ?

そこでゆっくり蓋を開けながらじっくり観察してみた。
すると、開いている途中で蓋の背面側の角の丸み部分が延びて変形することで、引っ掛かりを越えられるようになっていた!。しかも内側の引っ掛かりをクリアすると、この蓋の背面角の丸みはすっと元の形に戻る。よく見ると角の丸みの部分は、辺にそって細かい折り目が7本程入っている。この折れ目がちょっとしたバネのような役目を果たしており、蓋を一旦開けてまた閉めてやってもちゃんと元通りの形に戻り、しっかりしまる。蓋がゆるくなってしまうことがない。非常に良く考えられている。

この機構をうまく働かせるためには、以下に示すような多くのパラメータを試行錯誤して決めてやる必要があったに違いない。
・背面の折れ目の高さ、長さ。
・側面の切りあがりの角度、どこまで切り込むか。
・角Rの大きさ、筋の本数。
・ボール紙の強度、バネ力、復元力と寿命(何回蓋を開け閉めしてもぴっちり元に戻るか)
などなど、数え上げたらきりがない。おそらくいろいろな材料を使い多数の試作品を
作って蓋の開け具合(硬すぎてもタバコが折れてしまう)、しまり具合を確かめたに違いない。ちょっとした機構、メカニズムに過ぎないが、ここには非常に多くの知恵が結集されているのだ。

感心した。

他にも偉いところはいっぱいある。
気になるので分解してみたら、出来るだけ用紙に無駄が出ないようによく考えられた展開図になっている。
必要なところでは強度を増すようにボール紙を折り曲げて2重にしてある。
当然こんなものは機械でパッケージングするので、組み立てやすさや多少の誤差も許容できるように設計せねばならぬはずだ。
組み立てる際の糊付けも、べったり塗るところとスポット的に点で圧着のようにしてくっつけてある所と使い分けてある。
更には外装のフィルムは、角R部分にあまりしわがよらないように考えてか、折りたたみ方まで微妙に45度では無くしてある。

大した物だ。単なる見せかけだけ丸みをつけたデザインではない、機能的にちゃんと設計されているのだ。

私はタバコの箱を見ながら関心してしまった。ここには設計者の努力と工夫のあとがそこら中にちりばめられている。まさに工業デザイン、物を作るとはこうでなくてはいけない。

ひとつのタバコの箱をみつつ、そんなことを考えてしまった。

皆さんも時間があるときに身の回りの物を少しじっくり見てみると良い。普段気づかないところに色々な知恵が盛り込まれていることに気づくに違いない。

(なんか面白いもの見つけたら教えてね☆)